ござる。いずれ殿中で……」
「は」
 といったが紋太郎はどういってよいかまごついた。
「あまり道など迷われぬがよい。アッハハハお帰りなされ」
 いい捨て部下を引き連れると町の方へ引き上げて行った。
 後を見送った紋太郎はいよいよ益※[#二の字点、1−2−22]とほん[#「とほん」に傍点]として茫然《ぼんやり》せざるを得なかった。
「これはこれは何という晩だ! これはこれは何ということだ!」
 つづけさまに呟いたが、何んの誇張もなさそうである。


    駕籠と馬

 こういうことがあってからいよいよ益※[#二の字点、1−2−22]紋太郎は写山楼へ疑惑の眼を向けた。
「どうも怪しい」と思うのであった。
「専斎殿の話によれば、ちょうど吹矢で射られたような不思議な金創の人間を、あの写山楼の百畳敷でこっそり療治をしたというが、あるいはそれは人間ではなくて例の化鳥と関係あるもの――半人半妖というような妖怪変化ではあるまいか? それにもう一つ何んのために二十一人の大名があの夜あそこへ集まったのであろう? そうして奇怪な妖怪|舞踊《おどり》!」――こう考えて来ると紋太郎には、あの名高い写山楼なるも
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