めろ締めろ!」
ギ――と再び門の締まる陰気な音が響いたが森然《しん》とその後は静かになった。
で、紋太郎はそろそろと隠れ場所から現われたが、足音を盗み塀に添い裏門の方へ歩いて行った。
裏門も厳重に締まっている。乗ずべき隙などどこにもない。
待て! と突然呼ぶ者がある
それでも念のため近寄って邸内の様子を覗こうとした。
「どなたでござるな?」
と門内から、すぐに咎める声がした。「ここは裏門でござります。塀に付いてグルリとお廻りくだされ、すぐに表門でござります。……ははア柳生様のお先供で、ご苦労様に存じます」
「おやおやそれでは柳生侯も今夜はここへおいでと見える。大和正木坂で一万石、剣道だけで諸侯となられた但馬守様《たじまのかみさま》は剣《つるぎ》の神様、えらいお方がおいでになるぞ」
紋太郎いささか胆を潰し表門の方へ引っ返した。
「待て!」
と突然呼ぶ声がした。闇の中からキラリと一筋光の棒が走り出たが紋太郎の体を照らしたものである。その光が一瞬で消えると黒い闇をさらに黒めて一人の武士が現われた。宗十郎頭巾に龕燈提灯《がんどうちょうちん》、供の者が三人|従《つ》い
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