めた専斎はじたばた[#「じたばた」に傍点]するのを止めにした。じっと静かに安坐したまま駕籠舁きの足音に気を配った。
駕籠はズンズン進んで行く。右へ曲がったり左へ折れたり、そうかと思うと後返りをしたり、ある時は同じ一所を渦のようにグルグル廻ったりした。俄然駕籠は走り出した。どうやら坂道でも駈け上るらしい。と、不意に立ち止まった。
「やれやれどうやら着いたらしいな」こう専斎の思ったのは糠喜びという奴でまた駕籠は動き出した。
「どうもいけねえ」と渋面を作る。
それから駕籠は尚長い間冬の夜道を進むらしかった。儒者風をした人物は依然|駕籠側《かごわき》にいるらしかったが、一言も無駄言を云わないので、いよいよ専斎には気味悪かった。
桃色の肉に黄金色の毛
こうしておよそ今の時間にして四時間余りも経った頃、駕籠の歩みが緩《のろ》くなった。そうして足音の響き工合でどうやらこの辺が郊外らしく専斎の心に感じられた。と、にわかに駕籠が止まった。ギーと大門の開く音。と、また駕籠がゆっくりと動いた。がしかしすぐ止まる。
「ご苦労でござった」「遅くなりまして」「しからば乗り物をずっと奥まで」「よ
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