《ともどり》もなく止まっていたが、真っ黒の姿を陽に輝かせキョロキョロ四辺を見廻している。
 紋太郎はろくに狙いもせず筒口へ唇を宛《あて》たかと思うと、ヒュ――ッと風を切る音がして一筋の白光空を貫きそれと同時に樹上の鳥はコロリと地面へ転げ落ちた。
 いつもながらの精妙の手練に、三右衛門は感に耐えながらも、今は褒めている場合でない。重い溜息を吐くばかりであった。
「二尺八寸の短筒ながらこの素晴らしい威力はどうだ! 携帯に便、外見《みば》は上品、有難い獲物を手に入れたぞ」
「米屋薪屋醤油屋へ何んと弁解《いいわけ》したものであろう」
「三右衛、何が不足なのじゃ?」
「何も不足はござりませぬが。……金のないのが心配でござります」
「金か、金ならここにある」
 紋太郎は懐中へ手を入れるとスルリと胴巻を抜き出した。
「小判で二百両、これでも不足かな」
 三右衛門の前へドンと投げる。
「あまりお前が金々というから実はちょっとからかったまでさ」
「へえ、それにしてもこんな大金を……」
 三右衛門は容易に手を出さない。
 紋太郎は哄然と笑ったが、
「貧乏神のいったこともまんざら嘘ではなかったわい。……何の
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