感情と云うべきであろう。
駕籠と馬とはゆるゆると出島の方へ進んで行く。
蘭人居留地があらわれた。駕籠はそっちへ進んで行く。
こうして鉄門と鉄柵とで厳重によろわれた洋館が一行の前へ現われた時、一行は初めて立ち止まった。自《おのず》と門が左右に開き十数人の出迎えがあらわれた。駕籠と馬とがはいって行く。
「ああ蘭人か」
と呟いて紋太郎がぼんやり佇んだ。
もう四辺《あたり》は夕暮れて、暖国の蒼い空高く円い月が差し上った。
その時一人の侍が門を潜ってあらわれた。
「ちょっとお尋ね致します」
「何んでござるな?」と立ち止まる。
「只今ここへ駕籠と馬とがはいりましたように存じますが?」
「おおはいった。ここの主人じゃ」
「そのご主人のお姓名は?」
「ユージェント・ルー・ビショット氏。阿蘭陀《オランダ》より参った大画家じゃ」
「どちらよりのお帰りでござりましょう?」
「江戸将軍家より招かれて百鬼夜行の大油絵を揮毫《きごう》するため上京し、只今ようやく帰られたところ」
「二頭の馬に積まれたは?」
「ビショット氏発明の飛行機じゃ」
「は、飛行機と仰せられるは?」
「大鵬《おおとり》の形になぞら
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