逃がしたら取り返しは付かねえ」
 源太夫はそっちへ眼をやった。
「ふん、女に惚れているんだな」
「あたりめえだ、惚れてるとも、だから苦心して取り返したんだ」
「だが宜《よ》くねえぜ、そういう惚《ほ》れ方は、古い惚れ方っていうやつだ[#「やつだ」に傍点]」
 源太夫はその眼を光らせたが
「じゃ何が新らしいんだ」
「お前は承知させて、それからにしようって云うんだろう? だめだよだめだよそんなことは……」
「俺には出来ねえ、殺生な真似はな」
「じゃあお前は縮尻《しくじる》ぜ」
 源太夫は返辞《いらえ》をしなかった。
「叩かれると犬は従《つ》いて来る。撫《さ》すると犬は喰らいつく。……」
 源太夫は考え込んだが、突然飛び上り喚声をあげた。
「お前の云うことは嘘じゃねえ!」

23[#「23」は縦中横]

 この時二階の一室では、最後の節が唄われていた。
 小堀義哉《こぼりよしや》の心の中は泉のように澄んでいた。
 なんの雑念も混じっていなかった。死に面接した瞬間に、人間の真価は現われる。驚くもの恐れるもの、もがく[#「もがく」に傍点]もの泣き叫ぶもの、そうして冷やかに傍観するもの、又突然|悟入
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