《ごにゅう》するもの、しかし義哉の心持は、いずれにもはまっていなかった。彼は三味線の芸術境に、没頭三昧することによって、すべてを忘れているのであった。
『山姥《やまうば》』の曲が終ると同時に、彼は死ななければならなかった。そうして殺し手が白刄を提《さ》げ、彼の背後に立っていた。
 時はズンズン経って行った。
 もう直ぐ曲は終わるのである。
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※[#歌記号、1−3−28]露《つゆ》にもぬれてしっぽりと、伏猪《ふすい》の床の菊がさね……
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 彼は悠々と唄いつづけた。
 異風変相の浪士達にも、名人の至芸は解《わか》ると見えて、首を垂れて聞き惚れていた。
 独楽師に扮した一人の浪士は「旨い!」と思わず呟いた、居合抜に※[#「にんべん+肖」、第4水準2−1−52]《やつ》したもう一人の浪士は、「ウーン」と深い呻声を洩らし、商人に扮した二人の浪士は顔と顔とを見合わせた。
 一座の頭領と思われる、琵琶師風の一浪士は、刀の柄を握ったまま堅くその眼を閉じていた。
 時はズンズン経って行った。
 伊庭八郎とその同志は、勝安房守の指図の下に、毛脛屋敷の表戸を、踏
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