解《わか》ったかな?」安房守は微笑した。
 しかし八郎は黙っていた。
「ないない」と安房守は穏やかに云った。「勿論全部は解らないだろう。だがこの俺を殺すことの、理不尽だという事は解ったらしいな」
「はい、さようにございます」伊庭八郎は一礼した。「見損ないましてございます」
「世の中は近々平和になるよ。だが今後とも小ぜりあい[#「ぜりあい」に傍点]はあろう。幕臣たる者は油断してはならない。八郎、お前、久能山《くのうざん》へ行け! 函嶺《かんれい》の険《けん》を扼《やく》してくれ!」
「それは、何故でございますな?」
「二三日中に西郷と逢う。そうして俺は談判する。俺の言葉を入れればよし、もし不幸にして入れなかったら、幕府の軍艦を一手に集め、東海道の薩長軍を、海上から俺は殲滅して見せる。函根《はこね》、久能山は大事な要害だ。敵に取られては面白くない。……まあ八郎聞くがいい、どうだ冴え切った三味線ではないか」
「よい音色でございますな」
 思わず八郎も耳を澄した。
 遠くで二つバンが鳴っていた。
 どこかに火事でもあると見える。
 しめやかに三味線はなお聞えた。
 にわかに八郎は呻くように云っ
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