ようとして喋舌っているらしい。
 宵ながら町はひっそり[#「ひっそり」に傍点]と寂れ、時々遙かの方角から脱走兵の打つらしい小銃の音が響いてきたが、その他には犬の声さえしない。
 その静寂を貫いて、咽ぶがような、清元の音色が、一脈綿々と流れてきた。
 刺客の一人は立ち止まり、じっと安房守を見守った。その安房守は背を向けたまま、平然として立っていた。まことに斬りよい姿勢であった。一刀に斬ることが出来そうであった。
 それだのに刺客は斬らなかった。一間ばかりの手前に立ち、ただじっと見詰めていた。彼は機先を制されたのであった。叱※[#「口+它」、第3水準1−14−88]するような安房守の言葉に、強く胸を打たれたのであった。しかし今にも抜き放そうとして、しっかり握っている右の手を柄から放そうとはしなかった。
「斬らなければならない! たたっ[#「たたっ」に傍点]斬らなければならない! 二股武士、勝安房守《かつあわのかみ》[#「勝安房守《かつあわのかみ》」は底本では「勝安房安《かつあはのかみ》」]! だが不思議だな、斬ることが出来ない」
 刺客の心は乱れていた。
 と、唄声がはっきり聞こえた。

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