勿論義哉もカッとなった。しかし義哉は芸人であって、忍耐性に富んでいた。それで、別に顔色をかえず、冷やかに相手を見返した。
「小堀氏、何と思われるな?」
琵琶師風の浪士は嘲笑うように「さぞ憤慨に堪えられますまいな」
「破壊、放火、殺人というような殺伐なことは大嫌いでござる。こういう意味から云う時は、勿論|貴所《きしょ》方の計画を、快く思うことは出来ませんな」義哉は憚らず思う所を云った。
「将軍に対する反逆については?」
「それとてよくはござらぬな。しかし、大勢というものは、多数の意嚮《いこう》に帰するものでござる。天下は一人の天下ではなく、即ち天下の天下でござる、いや、帝の天下でござる」
「しかし、貴殿は旗本とのこと、すれば将軍は直接の主君、それに反抗するこの我々をさぞ憎く覚し召さりょうな?」
「さようでござる、普通にはな」義哉は敢て興奮もせず「しかしそれより実の所は、勤王、左幕の衝突の結果、世間がいつ迄もおちつかず[#「おちつかず」に傍点]、その為芸道の廃れを見るのが、拙者にとっては残念でござるよ」
「ナニ、芸道とな? 何の芸道?」
「清元、常磐津《ときわづ》、長唄、新内、その他一般
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