ばならなかった。いやいやそれよりこうなってみれば、先ず何より自分自身の、安全を計らなければならなかった。
「戸を破るより仕方がない」そこで彼は全力を集め、裏戸へ体をぶっつけた[#「ぶっつけた」に傍点][#「ぶっつけた」は底本では「ぶつっけた」]。
 途端に人声が聞こえてきた。
「こっちでござる。お入りなされ」
 ギョッとして四辺《あたり》を見廻すと、一筋の火光が天井から、斜に足許へ射していた。二階から来た燈火《あかり》である。ぼんやりと梯子段も見えている。その梯子段の行き詰まりに、がんじょうな戸が立ててあり、それが細目にあけられた隙から火光が幽《かすか》に洩れていた。
「それでは空家ではなかったのか」こう思うと彼は心強くなった。それと同時に案内も乞わず、他人の家へ入り込んだことが、申し訳なくも思われた。
「こちらへ」
 という声が聞こえた。
 そこで彼は階段を上った。
 思わず彼はあっ[#「あっ」に傍点]と云った。二階の部屋の光景が不思議を極めていたからであった。そこには十人の男がいた。一人は按摩、一人は瞽女《ごぜ》、もう一人は琵琶師、もう一人は飴屋、更に、居合抜に扮したもの、更に独楽
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