中横]
左と右は板壁で、出入口らしいものは一つもなく。[#「。」はママ]ただ正面に古びた家が、戸口を向けて立っていた。
「ああ、あの家へ入り込んだな」
こう思った彼は走り寄ると、躊躇なく表戸へ手を掛けた。すると意外にもスルリと開いた。内へ入って見廻すと、空家と見えて人影もなく、家具類さえ[#「さえ」は底本では「さへ」]見あたらない。
裏にも一つの出入口があって、その戸がなかば[#「なかば」に傍点]開いていた。
「うん、あそこから抜け出したのだな」
で、彼はその口から、急いで外へ出ようとした。すると、その戸がにわかに閉じ、閂《かんぬき》を下す音がした。
「しまった!」と叫ぶと身を翻えし、入って来た口から出ようとした。するとその戸も外から閉ざされ、閂のかかる音がした。
もう出ることは出来なかった。彼は監禁されてしまった。
こんな場合の彼の心に、よくあてはまる[#「あてはまる」に傍点]形容詞といえば「茫然」という文字だろう。実際彼は茫然として、暗黒の家内に突立っていた。
しかしいつまでも茫然として、突立っていることは出来なかった。抜け出さなければならなかったし、追っかけなけれ
前へ
次へ
全111ページ中61ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
国枝 史郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング