仲間を捨てたまま、パラパラと四方へ逃げ散った。
 その隙に義哉は走り出した。
 朧ろの春の月影に、丘の方を透かして見ると、お錦をかどわか[#「かどわか」に傍点]した一団は、今や丘を上りきり、向う側へ下りようとしていた。
 で、血刀をさげたまま彼はその後を追っかけた。しかし頂上まで来た時には、彼等の一団は丘を下り、巴町《ともえちょう》の方へ走っていた。
 そこで彼も丘を下り、彼らの後を追っかけて行った。
 夜の静寂を驚かせ、彼らの走る足音は、家々の戸に反響したが、さてその戸を引き開けて、事件の真相を知ろうというような、冒険好きの者はいなかった。この頃は幕府も末の末で、有司の威令は行なわれず、将軍の威厳さえほとんど傾き、市中は文字通り無警察で、白昼切取強盗さえあった。
 そこで、市民は日中さえ、店を開こうとはしないほどであった。
 その時、破落戸の一団は、にわかに大通りから横へそれた。で、義哉もその後を追い、狭い露路を左へ曲がった。
 曲がって見て彼はアッと云った。露路は浅い袋路なのに、彼らの姿がどこにも見えない。
 彼は棒立ちに突立った。それから仔細に辺りを見た。

16[#「16」は縦
前へ 次へ
全111ページ中60ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
国枝 史郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング