間使を呼び「ちょっと私は出てくるからね。この手箱をしまっておくれ」
 云いすてとつかわ[#「とつかわ」に傍点]家を出ると、愛宕《あたご》下の方へ足を向けた。
 暮れそうで暮れない春の日も、愛宕下へ来た頃には、もうすっかり暮れてしまって、人の顔さえさだか[#「さだか」に傍点]でなかった。その時こんもりと繁り合った、林の中から云い争うような男女の声が聞こえてきた。
 さてこそ[#「さてこそ」に傍点]! というような気持がして、義哉はそっち[#「そっち」に傍点]へ走って行った。
 そこは林のずっと奥で、丘になろうとする傾斜地であったが、香具師《やし》風をした八九人の男が、一人の娘を真中に取り込め、口汚く罵っていた。その娘はお錦であった。それと見て取った小堀義哉は、足音荒く走り寄ったが、
「この破落戸《ならずもの》!」と一喝した。
 しかしこれは悪かった。破落戸のうち四五人の者が、急に彼の方へ向かって来た。そうして後の四五人は、お錦を宙へ吊るすようにして、一散に丘の方へ走り出した。ならずもの[#「ならずもの」に傍点]などと声をかけずに、忍び寄って一刀に、彼らの一人を斬ったなら、彼らは恐れて逃げ
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