こぼりよしや》は裏座敷で、清元《きよもと》の『山姥《やまうば》』をさら[#「さら」に傍点]っていた。
 と、襖がつつましく[#「つつましく」に傍点]開いて、小間使いのお花が顔を出した。
「あの、お客様でございます」
「お客様? どなただな?」
「伊丹屋《いたみや》の娘だと仰有《おっしゃ》いまして、眼の醒《さめ》るようなお美しい方が、駕籠でお見えでございます」
「ああそうか、通すがよい」
 間もなく部屋へ現われたのは、盛装をしたお錦であった。
「お錦殿か、よく見えられたな」義哉は愛想よく声を掛けた。
「昨夜はお助け下されまして、お蔭をもちまして危難を遁がれ、何とお礼を申してよいやら」
 お錦は手をついて辞儀をしたが、「お礼にあがりましてござります」
 其処へ小間使いが現われて、頂戴物の披露をした。
「それはそれはご丁寧に。そんな心配には及ばなかったものを」義哉はかえって気の毒そうにした。
 一人は美男の若侍、一人は妖艶な町娘、それに男は武士とは云っても、清元の名手で寧ろ芸人そうして女は其昔は女軽業の太夫である。それが春の日の閑静な部屋に、二人だけで向かい合っているのであった。
 二人はし
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