じゃねえかよ、ねえ親方、なんのお前さんや源公が、紫錦さんの居場所を知ってるものか。大嘘吐きのコンコンチキさね。こっちはちゃあんと[#「ちゃあんと」に傍点]見透しだあ」トン公は小気味よく喝破してから、「ねえ親方、嘘だと思うなら、荒筋を摘まんで話してもいい。聞きなさるか、え、親方《おやかた》?」
文は返辞をしなかった。
「まずこうだ、しかも今日、お前さんとそうして源公とが、観音堂の横っちょ[#「っちょ」に傍点]で、エテ物を踊らせていたってものだ。するとそこへ遣って来たのが、令嬢姿の紫錦さんよ。で、早速源公が後をつけ[#「つけ」に傍点]たというものだ。そうさ、ここまでは成功だ。だが、後が面白くねえ、そうさ、途中でまかれ[#「まかれ」に傍点]たんだからな。アッハハハ、いい面の皮さ。……だから親方にしろ源公にしろ、紫錦さんの居り場所なんか、知ってるはずはねえじゃあねえか。へん、この通り、見透しだあね」
文は返辞をしなかった。事実は返辞が出来なかった。それというのもトン公の言葉が一々胸にあたるからであった。
「トン公!」ととうとう喚くように云った。「昔の親方の恩を忘れ、襟元へ付こうって云うんだ
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