「それじゃどうも仕方がねえ」じっ[#「じっ」に傍点]と「爺つあん」は考え込んだが、
「云うとしよう、在り場所をな」
「おお云うか、それはそれは」文はニタリと北叟笑《ほくそえ》みをしたが、「どこにあるんだ、え、手箱は」
「その代り手箱を手に入れたら、きっと紫錦からは手を引くだろうな」
「云うにゃ及ぶだ、手を引くとも。元々あの娘を抑えたのは、その手箱が欲しかったからさ。いわば人質に取ったんだからな。……で、手箱はどこにあるな?」
「よく聞きねえよ、その手箱はな……」
「おっと、云っちゃいけねえ!」突然こう云う声がした。
 驚く二人の眼の前へ、襖をあけて現われたのは、他でもないトン公であったが、頭を白布で巻いているのは、傷を結《いわ》えたからであろう。
「おお親方、久し振りだね」まず文へ挨拶をした。
「や、手前、トン公じゃねえか!」文は憎さげに怒鳴《どな》り声をあげ「福助の出る幕じゃあねえ、引っ込んでろ!」
「そいつはいけねえ、いけねえとも、お生憎さまだが引っ込めねえ」負けずにトン公はやり返した。
「と云うなあお前さんが、あんまり嘘を云うからさ」
「ナニ嘘を云う? 嘘とはなんだ!」
「嘘
前へ 次へ
全111ページ中51ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
国枝 史郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング