方からやって来たが、大道芸人の顔を見るとにわかに足を急がせた。その様子が変だったので、大道芸人は眼をそばめた。
「おや? 可笑《おか》しいぞ、彼奴《あいつ》そっくりだぞ?」
こう口の中で呟いたかと思うと、彼の側《そば》に蹲居《しゃが》んでいた二十四五の若者へ、顎でしゃくって[#「しゃくって」に傍点]合図をした。
「オイ源公《げんこう》、今のを[#「のを」に傍点]見たか?」
「うん」と云うと若者は、その殺気立った燃えるような眼で、人混の中へ消え去ろうとする娘の姿を見送ったが、「異《ちげ》いねえよ、あの阿魔《あま》だよ」
「だが様子が変わり過ぎるな」
「ナーニ彼奴だ、彼奴に相違ねえ」
「そうさ、俺もそう思う」
「畜生、顔を反けやがった」
「オイ源公、後をつけて見な」
「云うにゃ及ぶだ。見遁せるものか」
で、源公は人波を分け、娘の後を追って行った。
「さあさあ太夫《たゆう》さん一踊り、ご苦労ながら一踊り……※[#歌記号、1−3−28]男達《おとこだて》ならこの釜無《かまなし》の流れ来る水止めて見ろ……ヨイサッサ、ヨイサッサ」
大道芸人が唄い出し、鼬が立っておどりだした。
「おおトン公
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