った。
鼬の芸当が人気を呼んでこの一座は評判が可《よ》かった。で生温い干渉では、引き払って行きそうには思われなかった。それに時代が幕末で、諸方には戦争が行なわれていた、官の威光も薄らいでいた。下手をすると逆捻《さかねじ》を喰らう。
で疾風迅雷的に、やっつけよう[#「やっつけよう」に傍点]と云うことになった。
その夜二人はいつものように、肩を並べて茶屋を出た。
湖上は凄いほど静かであった。空を仰げばどんより[#「どんより」に傍点]と曇り、今にも降ってきそうであった。
伊太郎を家《うち》へ送り込むと、紫錦は舟を漕ぎ返した。と、その時雨と一緒に嵐が颯《さっ》と吹いてきた。周囲四里の小湖ではあったが、浪が立てば随分危険で、時々|漁舟《いさりぶね》を覆えした。
「これは困った」と驚きながら、紫錦は懸命に櫓を漕いだ。
次第に嵐は吹き募り、それに連れて浪が高まり、間もなく櫓櫂《ろかい》が役に立たなくなった。
「どうしよう」
と紫錦は周章《あわ》てながらなおしばらくは櫓を漕いだ。
しかし益々風雨は募り、全くシケの光景となり、漕いでも無駄と知った時、紫錦は舟底へ身を横仆《よこた》えた。
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