とは云え浮世は金が仇、金のためには義理ある弟さえ、殺そうとする悪党もある。私《わし》から見れば間瀬とか云う男、食わせ者の銀流し、太い野郎に思われますなあ」
 自分がこれから遂げようとする、極悪非道の所業に引っ掛け、長庵はこんなことを云ったものである。

追って行く人追われる人
 それに、長庵の眼からみれば、このセチ辛い世の中に、他人の罪を身に引き受け、浪人したという事が、変に不自然にも思われるのであった。
「どうでも俺とは歯が合わねえ」
 こう長庵は思うのであった。
「義侠心と云えばそうも云えるが、つまりそいつは宋讓《そうじょう》の仁で、一つ間違うと物笑いの種だ。いやもう物笑いになっている。襤褸《ぼろ》を下げて病みほほけ[#「ほほけ」に傍点]、長庵ずれの施療患者に、成り下るとは恥さらし。それに反して利口なは、間瀬金三郎とか云う男、泣き付いて拝み倒し、自分の科《とが》を他人《ひと》になす[#「なす」に傍点]り、うまうま罪科を脱《のが》れたとは、正に当世でこちらの畑。出世をしているに違えねえ」
「もしえ」と長庵はニヤニヤしながら、
「間瀬とか云うその仁、その後お豆でございますかね」
「健康
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