がないとのこと、再三金三郎よりの消息でござる」
「しかしそいつは些《ちと》面妖、疑わしい点でござりますなあ。これが一年や半年なれば、そう諦らめても居られましょうが、何と申しても五年の月日が流れて居るのではござりませぬか。その長い五年間には、お殿様にもご機嫌よく、家来共の言葉を快くお聞きなさる時もござりましょうに。そういう場合にお取りなししたら、何の困難《むつかし》い障害《さわり》もなく、帰参が適《かな》うに相違ござりませぬ。……今日までご帰参の適わぬは、そのご朋友の金三郎様が、お取りなしせぬからに相違ござりませぬ」
長庵は意気込んで云ったものである。
「実は拙者も折々は、そのように思わぬこともないが、そういう考えの出る時には努《つと》めて消そうと試みて来ました。と云うのはこの拙者、これまで人に怨まれるような、悪事を致した覚えがなく、金三郎とて真人間のこと、恩を忘れるはずはない。おっつけ殿からの使者《つかい》が来て、芽出度《めでた》く帰参が適うものと、確《かた》く信じて居るからでござるよ」
「それは真面目のご貴殿のこと、他人《ひと》に怨みを買うような、よくないご所業をなさるはずはない。
前へ
次へ
全19ページ中8ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
国枝 史郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング