、ビクビクガタガタ来かかったは、芝三角札の辻、刃の光に雲助ども、駕籠を飛ばせて逃げればこそ、往来中へおいてけぼり[#「おいてけぼり」に傍点]、見まいとしても見えるのは、人形歌舞伎の殺し場よりもっと惨酷《むご》い嬲り殺し。あんまり胆を潰したので、かえって今では度胸が据わり、草双紙で見た女賊の張本、瀧夜叉姫の相格を、つい気取っても見たくなり、呼び止めたはとんだ[#「とんだ」に傍点]粹興、と云っても一旦止めたものをただで返すは女郎の恥、みんなとは云わぬ半金だけ、妾《わちき》にくれて行きなましえ」
すっかり時代で嚇しかける。
「一両二両の端た金なら、テラ銭のつもりで置いても行こう、こう思っていた鼻先で、半金よこせは馬鹿な面め、坊主々々と安く見ても、名を明かされたら顫え出そう。もうこうなりゃア一両も厭だ。口惜しかったら腕で来い。それとも白砂へ駆け込むか。気の毒ながら手前だって、明い体じゃよも[#「よも」に傍点]あるめえ。自繩自縛とは汝《うぬ》がこと、ハイ左様なら俺は行く。二度と呼ぶな返りゃしねえぞ」
尻ひっからげ駆け出す長庵、五間あまり行き過ぎた。
ギーという扉の開く音。ヒラリと刎ねたは
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