ど、殺すぶに[#「ぶに」に傍点]はあるめえによ。妾《わちき》ア見ていて総毛立ちいした。殺生なひとでありんすねえ。……それでどれほど儲けなんしたえ?」
「プッ」と長庵それを聞くと、いまいましそうに唾を吐いたが、
「いや艶めかしい廓《さと》言葉と白無垢鉄火の強白《こわせりふ》、交替《かたみがわり》に使われちゃどう[#「どう」に傍点]にも俺ら手が出ねえ。一体お前《めえ》は何者だね?」
「おや正体が見たいのかえ。見せてやるのはいと易いけれど、おまはんの眼でも潰れてはと、それが気の毒で見せられないよ」
「大きな事を吐きゃアがる。見せられなけりゃ見ねえまでよ。どれ俺らは行くとしよう」
「あれさ、気の早い坊さんだよ、ゆっくりしなんし、夜は深うざます」
「へ、へ、へ、へ、物も云えねえ。俺を止めてどうする気だ?」
「ふてえ[#「ふてえ」に傍点]分けを置いておいでよ」
「厭と云うたら何とする」
「厭とは云わせぬ手練手管[#「手管」は底本では「手菅」]……」
「ウヘエ、さては女郎だな」
「いやなお客に連れられて、二日がかりの島遊山、一人別れて通し駕籠、更けて恐ろし犬の声、それより恐い雲助に凄い文句で嚇されて
前へ 次へ
全19ページ中15ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
国枝 史郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング