の方で教授するかな。……いや待ったり他のことがある、生花や茶の湯を習うがいい。山の中にいたお前さんのことだ、そういうことは知らないだろう。茶の湯、生花、これからお習い! え、何んだって、知っているって? 痩せ我慢はいけない、気取ってはいけない。山家育ちのお前さんなどが――と云っても大変別嬪だが、何んの茶の湯や生花などを、知っていることがあるものか。え、本当に知っているって? ふうん、そうか、それは感心。そうかも知れない。そうかも知れない、打ち見たところ上品で、女一通りの芸や作法は、どうやら心得ているように見える。何さ何さ一通りどころか、十二分に心得ているらしい。とするとどうも困ったな。何を習ったらいいだろう? おおそうだ、いいものがある、お習いお習い、泥棒をね」
 葵ご紋の威厳のある武士《さむらい》は、能弁に愉快そうに喋舌って来たが、とうとうこんなことを云い出してしまった。泥棒を習えというのである。
 これにはさすがの桔梗様も、驚いたかというに驚かなかった。
 したたるような美しい眼と、恍惚《うっとり》するほどの美しい声とで、負けずに愉快そうに云ったものである。
「叔父様、結構でござい
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