へ一人で閉じこもり、研究に浮身をやつしているとは。……ははあそうか、大事な大事な、永生の蝶とかいうものを、二匹ともなくしてしまったので、それでそんなに変わったというのか。学者というものは変なものだな。変梃《へんてこ》な蝶をなくしたことぐらいで、気が変わるとは解せないよ。もっとも研究材料で、大事なものには相違あるまいがな……まあまあそれはそれとして、お前さんと逢えたのは有難い。遠慮はいらない遠慮はいらない。ここを自分の家だと思って、気随気儘にくらすがいい。何んと云っても私とお前とは、叔父さん姪さんの仲だからな。綺麗な姪さんがやって来たのだ。これまでは陰気過ぎたこの家も、これからは陽気になるだろう。……お前さんにとってもいいことだよ、三浦三崎の山の中などに、そんな虫だの獣だの、片輪者などと住んでいるよりはな。江戸へ来た方がずっといい。……と云って茫然《ぼんやり》遊んでいたでは、お前さんにしてからが退屈だろう。そこで何かを習うがいい。と云ってお父さんはあれほどの学者、したがってお前さんも学者だろう。だから、恐らく学問などは習う必要はないだろう。ひとつ反対《あべこべ》に弟子でも取って、お前さん
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