がその唸り、さすがに気色が悪そうであった。「そうさどっちみち[#「どっちみち」に傍点]昆虫館へ入り込み、永生の蝶を盗み出した貴殿だ、乙女の恋も盗んだでござろう」
「無礼な!」と小一郎は一喝した。「盗みはせぬよ、永生の蝶を、手に入れたのだ、偶然にな!」
「さようか」と集五郎は毒々しい。「まあまあそいつはどうでもよい。そうともそいつはどうでもよい。とまれ貴殿永生の蝶を、持っているのは事実だからの。でこっちへふんだくる[#「ふんだくる」に傍点]、それだけで当方用はない。そこでちょっくら[#「ちょっくら」に傍点]聞きたいは、たった今貴殿ご自慢の、美しいお声の主との恋、首尾よく成就しましたかな? 云い換えるとご婚礼しましたかな?」
「ナニ婚礼!」と小一郎、これにはギョッとしてつまずいたが、「うむ、婚礼か、いや未だ」
「それではいつ頃?」
「いずれその中……」
「気の毒だなあ」
「何が何んだと!」
「プッ」と集五郎はどうしたものか、にわかに吹き出したものである。
「昆虫館主のご令嬢、美しい声の桔梗様が、山を下ってつい[#「つい」に傍点]この頃、江戸へはいったを知らないと見える」
「えッ」と仰天した
前へ 次へ
全229ページ中89ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
国枝 史郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング