の透視《みとおし》で知れた」ここでウンと威張ったが、「その華子様仰せらく『江戸を中心に五十里の地点、そこに住んでいた永生の蝶、その一匹が江戸へ入った』――そこで探しにかかったところ、目付かりましたよ、貴殿の道場が。鐘巻流剣道指南、一式小一郎とありましたからな。ははあとすぐに感付いて、それからそれと探りを入れると、知れましたなあ、永生の蝶をたしかにお持ちということがな」
「そこでその蝶を奪おうと、再々拙者を襲われたのだな」
「御意」と集五郎はまた揶揄的に、「どうだな、柔順《すなお》に渡されては」
「さればさ」と云ったが小一郎は、わざとらしく首を引っ傾《かし》げた。
「余人へならば渡してもよい。が、貴殿へは渡されぬよ」
「ウフッ、なるほど、恋敵《こいがたき》だからで」
「その恋敵で思い出した。これ南部氏、集五郎氏、小梅田圃で耳にした、例の美しい声の主に、拙者面会致してな、恋の告白をしたところ、早速承知というところで、お手を下されたというものだ。うらやましかろうがな、いかがのもので」――こん畜生め! というような調子、そいつで小一郎はまくし立てた。
 こいつを聞くと集五郎は「ううむ」と唸った
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