ない性《たち》だ。遊侠の徒になるもよかろう。町道場をひらくもいい。好きな娘とくらすもいい。そうしてそうやってくらしていることが、やがては君侯田安家のおために、ならないこともなかろうからな。いろいろの人間と交わって、沢山同志をつくるもよかろう。台所の方は引き受けたよ。まさかお前に食い潰されもしまい」
 こういう背後楯《うしろだて》があるのである。小一郎たるもの喜ばざるを得ない。
 とはいえ一式小一郎は、そういう父の寛大に付け込み、暢気《のんき》に遊んでいるような、そんなナマクラな人物ではなかった。
「手に入れた永生の蝶の秘密を、是非とも解いて見たいものだ」――こいつに腐心をしているのであった。
 さてその永生の蝶であるが、まことに不思議なものであった。たしかにそいつは生きていた。呼吸もしていれば脈搏っている。しかし翅から肢体から、普通の蝶とはまるで異う。普通の蝶のように軟らかくない。鋼鉄で造られているのである。――いや鋼鉄で造られていると、そう云わなければ云いようのないほど、特殊の堅い物質で、精巧に造られているのである。
 それは実際こういうことが出来る。
 ――生命を持った人工の蝶と!
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