すよ」
 君江は承知だというように、「お気の毒さまでございますこと」
 今度は小一郎怒ったように、「ちと無礼ではございませんかな」
「まんざらそうでもございますまい」君江は少しも動じない。
 シャン、シャン、シャンと鈴の音、カバ、カバ、カバと蹄の音、二人の旅はつづいて行く。
「どこまでお送りくださるので?」やがて小一郎はこう訊いた。
「はい、どこへでも、あなたまかせ」君江の返辞はハッキリしている。
「拙者、江戸表へ帰ります」
「それでは江戸までお送りします」
「いささか執拗ではござらぬかな」小一郎は今度は窘《たしな》めにかかった。
「妾の性質でございます」依然として君江は驚かない。
「江戸までお送りくださるとして、一人で帰られるのは寂しかろうに」小一郎は今度は同情してしまった。
「何んの妾帰りましょう」
「え?」と小一郎は訊き返した。
「妾、いつまでもお側にいます」
「ははあさようで、それはそれは、しかし拙者は江戸へ帰れば、父の邸へ入るつもりで」
「お小間使いとなって住み込みます」君江は益※[#二の字点、1−2−22]長閑そうである。
「驚きましたな」と小一郎はほんとにひどく[#「ひど
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