作、等、等、等、といったようなものでね。いや実際人間などより、どんなにか昆虫の生活の方が、正しくて平等だか知れませんよ」
 学者らしい淡々とした口調である。
 向かい合って椅子へ腰をかけ、聞いているのは一式小一郎で、その顔付きは熱心である。

        十八

「だがご主人」と小一郎は、躊躇しながらも訊いてみた。「世間の噂によりますと、永生の蝶とかいう不思議な蝶が、この昆虫館にはありますそうで、どういう蝶なのでございましょう?」
 するとにわかに昆虫館主人は、いくらか憂鬱な顔をしたが、「結局私にも解らないのです」
「ははあ」と云ったが一式小一郎は、ちょっと物足りない思いがした。
「雄と雌との二匹がいて、二つを交尾《つが》えて子を産ませた時、莫大な財宝を得られるという、伝説的の蝶だそうで?」
「あれは絶対に子を産みませんよ」どうしたものか昆虫館主人は、こうにべもなく云ったものである。
「人工的蝶でございますからな」
「ははあなるほど、人工的なもので?」
「だがやっぱり生きてはいます」
 これは小一郎には解らなかった。
「では人間の力をもって、生命というものは作れますもので?」
「さ
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