ンと飛んだ。「二撃がある、三撃がある、四撃五撃といつまでも襲う! 遁がさぬぞよ、遁がすものか! 逃げたら卑怯、武士とは云わせぬ! さあ抜け抜け、汝《うぬ》も抜け!」
 小一郎の前方約一間、そこまで迫って来た片足の吉次は、例によって全身を左へ傾け、一本の足で支えたが、ジリジリジリジリと松葉杖を、上へ上へと上げて来る。狙いはどこだ。解らない! ただジリジリと上げて来る。
「ちょっと凄い」と小一郎は、睨み付けながら考えた。「足か、胴か、横面か、それとも頤か、さっきのように。……あいつ[#「あいつ」に傍点]を受けたら粉微塵、骨肉共にけし[#「けし」に傍点]飛ぶだろう。……習った武道とは思われない。あしらいにくいよそれだけに。……切って捨てるに訳はないが、しかし相手は片輪者、それに昆虫館土着の人間、非難が起ころう、討ち果たしてはな」
 思案に余ってしまったのである。
 その間もジリジリと松葉杖は、上へ上へと上がって来る。一尺二尺、さて三尺! と、グ――ッと振り冠った。光るは棘のある環である。陽に反射してキラキラキラキラと、非常に綺麗な宝石のようだ。そうして吉次は、一本足で、ヌ――ッと突っ立ち微動
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