肉な性質である。負けずに云い返した。
「拙者新米、昆虫館の掟、さようさ、とんと[#「とんと」に傍点]存じませんて」
「そうらしいの」と片足の吉次は、いよいよ不遜な態度をとったが、「穢してはならぬよ! 女王をな! 女王との恋は禁じられているよ」
「ははん、さようか、それはそれは」一式小一郎はこう云ったが、女王が何者だかということは、すぐに推察することが出来た。
十五
そこで小一郎は云い出した。
「穢しはせぬよ、崇めるばかりだ」
「それがいけない」と片足の吉次は、「崇めた後では穢すものさ」
「名言」と小一郎は一笑してしまった。「君の人情観察には、徹底したものがあるらしい。で、一応は受け入れて置こう」
「守らっしゃい!」と押し付けるような声で、吉次はグッとたしなめ[#「たしなめ」に傍点]にかかった。「いっそ昆虫館をお立ち去りなされ!」
「さあてね」と小一郎は、わざと困ったような顔をしたが、「女王殿下が許しましょうかしら?」
「ソレソレソレ、それが悪い!」吉次は今度は叱るように、「許すもない、許さないもない、本来神秘昆虫館へは、下界の人間を入れぬが規則、そいつを破って貴殿
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