刀を按じて!」
 迫身《ハクシン》ノ刀気《トウキ》ハ盤石ヲ貫ク、心眼察スル者《モノ》則《スナワ》チ豪《ゴウ》――鐘巻流の奥品《おうぽん》にある。その刀気を感じたらしい。で、寂然と動かなかった。
 不意に小一郎は左手《ゆんで》を上げ、鞘ぐるみ大刀を差し出したが、柄《つか》へ手をやると二寸ほど抜き、パチンと鍔鳴りの音をさせた。
 と、黒々と藪を巡り、一個の人影が現われた。
「さすがは一式小一郎氏、拙者のいるのを察しられたと見える」
「や、貴殿南部氏か!」
「さよう」というと南部集五郎は、二歩《ふたあし》ほど前へ進み出たが、「尾行《つ》けて参った、深川からな」
「ははあさようか、何んのご用で?」小一郎は油断をしなかった。
「率直に申す! お立ち合いなされ……」
「ほほう」と云ったが小一郎は、一つの考えを胸へ浮かべた。
「さては貴殿におかれても、阪東小篠にけしかけられ[#「けしかけられ」に傍点]ましたな?」
「では貴殿にも?」と南部集五郎は、いささか興醒めたというように、
「それでは益※[#二の字点、1−2−22]恰好というもの、遁《の》がしはせぬ、お立ち合いなされ!」
「さようさ、こいつは
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