に一座の大岩があった。その前に一人の武士がいた。他ならぬ一式小一郎で、ピッタリ太刀を構えている。それを半円に取り囲み、十二人の武士が構えていた。
 全く意外な光景であった。英五郎も君江も乾児の者も、アッと一時に釘付けになった。
 その時である。小一郎は、一躍前へ飛び出した。キラッと光ったは刀であろう。一声悲鳴が森を縫った。一人の武士がぶっ倒れた。しかしその次の瞬間には、十一人の武士がグルグルと、小一郎を真ん中に引っ包んだ。
「お父様!」
「君江!」
 と親子二人が、思わずヒョロヒョロとよろめいたのは、一式小一郎が、十一人の武士に、討って取られたと思ったからであろう。が、そいつは杞憂であった。数合の太刀音、数声の悲鳴、二人の武士が転がった。と、爾余の武士達が、ムラムラと左右へ崩れ立った。その隙間から毬のように、ポンと飛び出した武士がある。小一郎だ、岩を背負い、軽傷《うすで》も負わぬか、たじろぎ[#「たじろぎ」に傍点]もせず、刀を付けて構え込んだ。
「野郎ども!」と英五郎は、はじめて大音を響かせた。「やっつけてしまえ、背後《うしろ》から! 鏖殺《みなごろし》にしろ! 三ピンを!」
 竹槍、
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