郎は、注意するように云ったものである。「一式氏はな、鐘巻流の名手、瞬間に四人を討ち取ったほどの、素晴らしい腕を持っておられる。とても敵《かな》いませんよ、一騎討ちではな! そこで一同一つに集まり、半円を作ってヒタヒタ攻め、乱刃の中へ取り込めましょう。抜からぬように、よろしいかな。……一式氏!」と集五郎は、今度は小一郎へ声を掛けた。「さあさあ弾んで飛び込んでござい。真ん中を襲わば拙者お相手、その間に左右両翼が、引っ包んで討って取りましょう。左に向かわば右翼が返り、右に向かわば左翼が返り、同じく引っ包んで討って取る。もしいつまでも岩を背に、縮《すく》んでおいでなさるなら、よろしいよろしい次第に迫り詰め、十二本の白刃一時に、雨のように浴びせてお目にかける。……方々!」とまたもや集五郎は味方の勢《ぜい》を見返ったが、「とりかかりましょうか、人間料理!」
 声に応じて一ツ橋家の武士達、左右に延びて半円を作り、ジリジリジリジリと攻め寄せた。
 一方一式小一郎は、岩を背後に下段八双、構えたままで動かない。とはいえ心では考えていた。
「いかにも集五郎の云う通り、真ん中を襲ったら左右の翼、瞬間に畳んで来
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