えお嬢様、ようございますか、あの永生の蝶と来ては、盗めるものではございませんよ。こうも厳重に私達が、お守りをしているのですからね。それにお山は要害堅固、忍び込むことなんか出来ません」
「ところがそうばかりも云えないようだよ」いよいよ桔梗様は不安らしく、「この頃お父様問わず語りに『恐ろしい敵が現われた』と、こんなことを二、三度おっしゃったからね」
「へえ、そんな事を? 初耳ですなあ。で、いったいどんな敵なので?」
「今のところでは解らないよ。……それはそうと妾としては……」こう云うと桔梗様はどうしたものか、じーッと吉次の顔を見たが、「ああそうだよ妾としては、そんなお父様のおっしゃるような、恐ろしい敵がなかろうと、盗もうと思えば永生の蝶、誰にだって盗むことが出来ると思うよ」
「へえ、さようでございましょうか?」吉次は不安そうに訊き返した。
「お前にも盗めるし妾にも盗める」これは暗示的の言葉であった。
「何をおっしゃいます、お嬢様!」吉次は一足引いたものである。
「仲間うち[#「うち」に傍点]の者なら盗めるよ」
「ああそれではお嬢様は、仲聞のうちに裏切り者があって、そいつが盗んだとおっしゃる
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