達がちょっとでも間違うと、すぐに平均が崩れてしまう」
「私達が穏《おとな》しくしていれば、いつまでも現状はつづいて行きます」
「だから随分危険だとも云える」
「危険だからこそ面白いので」
「君江、相変わらず面白いことを云うな」
「あたりまえのことでございますよ」
「そのあたりまえということが、なかなかもって云えないものさ」
 谷底の道は辿りにくい。でも二人は辿って行く。

        五十四

 随分辿りにくい谷底である。大岩が諸所に盛り上がっている。藪や灌木が蔓《はびこ》っている。谷川が一筋流れていて、パッパッと飛沫をあげている。秩父名物の猿の群が、枝から枝へと飛び移り、二人を見ながら奇声を上げる。と、闇のような所へ出た。喬木が蔽うているのである。二人は先へ辿って行く。
 その時右側の谷の上から、ドッと鬨の声が湧き起こった。田安家の勢が一ツ橋家の勢へ、どうやら挑戦したらしい。と左側の谷の上から、それに答える鬨の声がした。一ツ橋勢が応じたものと見える。
 こうして二、三回鬨が上がったが、事件らしい事件も起こらなかった。
「面白いな」と小一郎。
「陽気でよろしゅうございます」
 ――
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