がそのおりから谷を越した、ずっと向こう側の山の上から、ドッと喊声が湧き起こった。
一挺の山駕籠がまず現われ、それに続いて二、三十人の武士が、黒蟻のように現われた。谷を見下ろしているのである。
「おおあれは田安勢だ!」こういう声が聞こえて来た。冷泉華子の声である。山駕籠の中から叫んだのらしい。「あの山駕籠に乗っている者は、北王子妙子さんに相違ないよ」
こうして田安勢と一ツ橋勢とが、顔を合わせることになったが、それにしても田安勢は何んのために、北王子妙子を山駕籠に乗せ、こんな所へあらわれたのだろう。
説明するにも及ぶまい。同じく山尼の居場所を突き止め、永世の蝶を取り返そうと、やって来たものに相違ない。
ふたたび乱闘は行われよう。
秩父山中を血に染めて、切り合うことになるだろう。
それにしても小一郎や集五郎や、冷泉華子や妙子までが、探し求めている山尼の群が、はたしてそんな秩父山中の、桐窪などにいるのだろうか?
ここは桐窪の一画である。
盆地が広く開いている。
晩夏の日光を刎ね返し、天幕が無数に立っている。わけても大きな天幕の中に、さも長閑《のどか》そうに話している、面白い
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