質は、寛大で剽軽《ひょうきん》で磊落《らいらく》だと見え、一向それを咎めようともしない。
「背後《うしろ》にもあれば前にもある、足にもあれば手にもある、胸にもあれば背中にもある、妾は体中眼なんだよ。何んのそればかりではない! 頭脳《あたま》! 頭脳! ね、頭脳、頭脳そのものが眼なんだよ。だからさ、妾にはどんなものでも見える、……だからさ、今度山を下り、江戸へ入り込んだというものさ」老婦人はこんなことを云い出した。
「いよいよ迷惑な婆さんだよ」小法師の鯱丸は毒舌である。「江戸入りしたのはいいけれど、筏船を作って帆を上げて、隅田川を上へ溯《さかのぼ》って、大きな屋敷の水門から、屋敷へ入り込もうとしたかと思うと、にわかに後へ引っ返し『鯱丸よ、行手変えだ! 芹沢の郷! 芹沢の郷! やれやれやれ、そっちへやれ』などとむやみに急《せ》き立てて、こんな方へ走らせて来たんだからなあ。その途方もない沢山の眼で何を見たのか知らないが、梶取《かじと》りの俺《おい》らは疲労《つか》れてしまう」どうやら鯱丸は不平らしい。「一体全体何んのために、そんな所へ行くのだろう」
「それはね」と云ったが老婦人の声は、この時
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