肩で烈しく呼吸をしている。歔欷《すすりない》ている証拠である。
 その前に墨の柱のように、黒の道服を身に纒い、立っているのは華子であった。黄金の杖を差し出している。杖の先からは醂麝液が、水銀色をして落ちている。落ちるに従って石畳の上に、小穴がポッツリポッツリと穿《あ》く。そうして煙りがポ――ッと立つ。
 唐獅子型の火炉の中では、火が赤々と燃えている。火炉には釜がかかっている。巨大な唐風の釜である。釜から立ち上っているものは、乳色をした湯気である。部屋全体が煙っている。紫陽花《あじさい》色に煙っている。天井から下がっている瓔珞龕《ようらくがん》、そこから射している灯の光それが煙らしているのである。
 少しも変わらない錬金部屋の光景!
 いやいや一つだけ変わっている。出入口に垂れてあった錦の帳《とばり》が、今は高々と掲げられ、開いた戸口から遠々しく、声が聞こえて来ることであった。
「一尺になった! 二尺になった!」それから少し間を置いて、「三尺になるのも間もあるまい!」――南部集五郎の呼び声である。
 と、華子は云い出した。
「あなたの恋人の一式様は、岩組で作った垢離部屋の中に、閉じ込めら
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