ることとを、セッセとお館に進めている、彼奴《きゃつ》決して方術師ではなく、精々のところ手品使い、初歩の忍術《しのび》の使い手に過ぎない。かような女を召し抱えたは、お館にとって不幸だが、これとてやはり競争から来ておる。一ツ橋家の方でまず最初に、蝦蟇《がま》夫人という女方術師を抱え、大仰に吹聴《ふいちょう》したからさ。で、噂による時は、一ツ橋家でも同じようなことを、その蝦蟇夫人が云い出したため、やはりそいつを手に入れようと、お館にはご苦心をされておるそうだ。今日も一日中御殿では、その評定で大騒ぎだった。困ったものだよ。こういう迷妄はな」
 こいつを聞いた小一郎が、驚きと興味とを感じたのは、説明するにも及ぶまい。膝を進めて訊いたものである。
「で、お父様、昆虫館は、どの辺にあるのでございましょう」
「云ったではないか、江戸を中心に、五十里以内の所にあると」
「確かなあり場所は解りませんので?」
「そうだよ、解っていないそうだ」
「鉄拐夫人が方術師なら、方術を用いて昆虫館のあり場所、すぐにも探し出してよさそうなもので」
「だからよ、彼奴《きゃつ》め、贋方術師さ」ここで清左衛門は眉をひそめたが、
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