差上げようと、この日頃苦心しているのですが、とても望みは遂げられますまい。まあ見て下さい。この体を! すっかり痩せて衰えて、骨と皮ばかりになりました。実は私はその盆と一しょに、心を捧げようと思っていたので。ああそうです、お嬢様へ……思いそめしが! 思いそめしが!』……お嬢様どうやら染吉は死んでしまいそうでございますよ」
果して名工染吉は、その後間もなく死んでしまい、お縫様も間もなくなくなって[#「なくなって」は底本では「なくって」]しまった。なくなる間際までお縫様は、最後の盆をほしがった。で、口癖のようにいったそうである。
「思いそめしが、思いそめしが」
「ね、兄貴、話といえば、ざっとこういったものなのさ」
話し終えた岡引《おかっぴき》の半九郎は、変に皮肉に笑ったものである。
「成る程[#「成る程」は底本では「成る程。」]」といったのは岡八である。
「大して面白い話でもないな」
「どうしてだい、面白いじゃァないか」
「古いありきたり[#「ありきたり」に傍点]の因果物語りさ」
「そうばかりもいわれないよ、遺跡《あと》がのこっているのだからな」
「おおお縫様の屋敷跡か」
「そっくりそ
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