なたの邪魔をしようとして、染吉の朱盆を集めたんじゃァないよ。どうしたら立派な赤い色を、死絵の中へ出すことが出来るか、その参考に江戸中を廻って染吉の、盆を集めたってものさ。そいつにお前さんが引っかかったのは、少ォしばっかり間抜けだねえ』と。いやはやどうも、これには参った」
「だがオイ」と岡八またいった。「お前の話しがお縫様屋敷の話、みんながみんな嘘でもあるめえ」
「うん」と半九郎苦笑をし「今辻斬がはやるから、辻斬の武士を一枚入れ、染吉の朱盆が値を呼んだというからそこで、そいつを早速取り入れ、お縫様屋敷の物語りを、チョッピリ加えてデッチ上げたってものさ」
「お縫様屋敷の真相は?」
「お縫様という美人がいた。人を恋して死んでしまった。今に執念が残っている。ただこれだけさ、何があるものか」
「だが、よかったよ、お前の話、俺に難事件を片付させてくれた」
「兄貴を担ごうと思ったんだが、まるでアベコベに利用されてしまった」
「どんな話にだって暗示はあるなあ。だがお前にも厄介になった。有難かった、一杯飲もう」



底本:「妖異全集」桃源社
   1975(昭和50)年9月25日発行
初出:「サンデー
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