製造するこことが」]出来なかったと、こう解釈をしてもいいし、もし染吉の作った朱盆に、ひょっと人の血が雑《まざ》ってでもいるなら、染吉自身の血だとして、あんまり生血を絞ったんで、衰えて死んだとしてもいい。……兎に角ほんとに染吉という奴は、わけのわからない衰死病で、若死したというからなあ。古道具屋の爺もいっていたよ……どうだアラカタこれでよかろう。スッパリ辻褄は合ったろうがな」
 また笑ったものである。
「お縫様の死はどうするね?」半九郎|凹《へこ》まずきき返した。
「ある大店の娘御が、癆咳《ろうがい》を病って寮住居、年頃だから恋がほしい、そこでぜひとも『思ひそめしが』と、誰かに口説いて貰いたい、そこでその盆をほしがっているうち、病気が進んでなくなられた。癆咳娘の住居した寮だ、借手がないという所で、今日までも空家なのさ。……ということにするがいいさ。ごらんよ、ちゃァんと辻褄が合わあ」
「その話はそれでよいとして、お前のぶつかったその女、凄いほどの美人だということだが、どうして染吉の朱盆ばかりを、そうも買あつめたものだろう?」
「ああ、そいつか、その女がいったよ、『ねえ岡八さん、何も私は、あ
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