ろいた所」はママ]を人間の手が、グイと首根ッ子を抑えつけた。
ギョッとはしたがそこは岡引、スルリと抜けると前へ飛んだ。
「どいつだ」と叫んだものである。
もちろん姿は見えなかった。しかし商売柄感覚でわかる、たしかに五、六人の男がいる。じっと、こちらを狙っている。
「とうとうこいつ[#「こいつ」に傍点]えらいことになったぞ」懐中へ手をやるとスルリと十手、引出して頭上へ振上げた――来やがれ、ミッシリ、くらわせてやるから! こう決心をしたのである。
「オイ若いの」しばらくの後だ、闇の中から声がした。「じたばたするな、ついて来い! 悪い所へ連れては行かない。途法もねえいい所へ連れて行く。眼の眩むようないい所へな!」
濁った不快な声である。
岡八返事をしなかった。出で入る気息をじっと調べ、飛び込んで来るのを待っていた。
「来るな」と思った一刹那、果して一人飛びかかって来た。ガンと一つ! 狂いはない! 手練の十手だ、眉間《みけん》を撲った。
「むっ」といううめき! 倒れる音! 後はシーンと静かである。
岡八ソロリと位置を変えた。
「鳥渡手強い」とつぶやく声、闇の中から聞えて来た。例の濁っ
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