家へ帰るらしい。
 上野山下まで来た時には、すでに宵を過ごしていた。足に自信があると見え、女は駕籠へ乗ろうとさえしない。

     六

「大金を持っているだろうに、こんな夜道を女一人で、この押詰った師走空を、恐れ気もなく歩くとは、とても度胸は太いものだ。いよいよ並の阿魔ッ子じゃァねえな」
 ますます不審が強まって来た。
 車坂の方へ歩いて行く。で岡八も、つけて行く。
 養善寺のそばから道が別れる。左へ行けば鶯谷、右へ行けば阪本である。
 何んと女は昼も物凄い鶯谷の方へ行くではないか、
「こいつはどうも大胆だなあ。こうなると俺も考えなけりゃならねえ」
 足をとめたのは、さすがの岡八も、薄っ気味が悪くなったのだろう。
 女はズンズンあるいて行く。直と藪蔭に消えてしまった。
「いけねえ、つけよう、どんなことをしても、たかが女だ、大事はあるまい……」
 で直に追っかけた。
 藪が左右を蔽うている。大木が空を遮っている。昼も薄暗い場所である。今は真の闇で、星さえ見えない。女の足音が遠くでする。
 藪の底まで来た時であった。岡八、何かに躓いた。たじろいた所[#「たじろいた所」に傍点][#「たじ
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