様では、百五十金でもとめられたそうで」
「ふうん」といったが少し参った。「成る程それではこの爺、俺を相手にしねえ筈だ」
「だが、それにしても値が出たなあ、たかだかお前染吉といえば、十年前の職人じゃァないか」
「初《はな》から数が少ないんで」
「江戸中に一体幾つあるんだろう?」
「日本中に三十とはありますまい」
「ふうん」と又も参ってしまった。「そんなに数がねえのかなあ」
「ひどく若死にをしましたのでね」
「その死に方も変だったそうだな」
「よくご存知で、衰死したそうで」
「縁起でもなく死んだものだな」
「だから一層値が出ました」
「それは一体どういう訳だ?」
「すべて数寄者という者は、箔のついたものを好みますからな」教える[#「教える」は底本では「数える」]ような態度である。
「箔にもよりけり、縁起でもねえ箔だ」
「当今死に絵さえ、はやっております」
「うん、成程」と、又参った。
「こいつァ初手から駄目らしいぞ」岡八しょげざるを得なかった。「ぼた餅は棚にはなかったよ」
あきらめて立とうとした時である。一人の女が這入って来た。
小紋縮緬の豪勢なみなり[#「みなり」に傍点]、おこそ[#
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