《うつのみやきんつな》宿所《しゅくしょ》にも帰えらず、六波羅殿よりすぐに打ち立ち、主従わずかに十五騎にて、天王寺へ向いましてござりまするが、洛中におりましたるところの兵《つわもの》ども、それと聞き伝え馳せ加わり、四塚作道に達しました頃には、五百|余騎《よき》になりましてござりまする。その行動の果敢なる、権門であれ勢家であれ、路次にて一旦|邂逅《かいこう》しますれば、乗馬を奪い、従者を役夫とし、躊躇するところござりませぬ。そのため旅人は路程を迂回《まわ》り、家々では扉《とぼそ》を閉じまするような有様。既に柱松《はしらもと》に陣を取り、明朝此方へ取りかからん構え、必死に見えましてござりまする」

       三

「成程」と正成は聞き終ると、しばらくじっと考え込んだ。
「正遠」とややあって正成は、傍につつましく控えている、一族の和田五郎正遠へ微笑を含んで声をかけた。「意見あろう申してみい」
「は」と云うと正遠は、ユサリと一膝すすめたが、「先般隅田、高橋の勢の、五千余騎をさえ渡辺の橋にて、追い崩しましてござりまする。かかる我君の手腕《てなみ》にも恐れず、公綱《きんつな》わずか七百余騎にて二
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