テ四海ヲ呑ム。これは北條の、一族の悪逆《あくぎゃく》を指しているのであろう。西鳥来テ東魚ヲ食ウ。これは何者か関東を滅す。という予言に相違ない。日西天ニ没スとあるは、帝《みかど》隠岐島《おきのしま》へ御|遷幸《せんこう》ましまされた、この一事を指しておられるのであろう。三百七十余日とあるからには、明年のその頃に都へ御還幸、御位に復されるやも計られぬ。……しかしそれにしてもその次に書かれた、※[#「けものへん+彌」、第3水準1−87−82]猴《びこう》ノ如キモノ天下ヲ掠《かす》ムとは、一体どういう意味なのであろう?)
 一抹の不安が正成の心に起った。
 これは勿論|足利尊氏《あしかがたかうじ》によって、天下を奪われることを予言したところの、その一文であるのであったが、如何に聡明の正成にも、そこまでは思い及ばなかったのである。
(どうあろうと我に於て関わりはない)
 すぐ正成は快然《かいぜん》とこう思った。
(帝の忠誠の臣として、帝の一個の衛士《えじ》として、尽くすべきことを尽くせばよい。ましてや太子のその後の予言に、大兇変ジテ一元ニ帰スと、こう記してあるではないか)
 快然とした正成の謹厚
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