の秘書にはござりまするが、多門兵衛様には忠誠丹心《ちゅうせいたんしん》、まことの武夫《もののふ》と存じますれば、別儀をもちまして、お眼にかけるでござりましょう」
と云い、一旦奥へはいったが、やがて金軸《こんじく》の書一巻を、恭《うやうや》しく捧げて現われた。
正成は悦び譬《たと》うるものなく、謹みかしこんで両手に受け、徐《おもむろ》に開いて読んで行った。
不思議の一連が眼にうつった。
「人王《じんおう》九十五代ニ当ツテ、天下一|度《たび》乱レテ而テ主《しゅ》安《やす》カラズ。此時|東魚《とうぎょ》来《きたり》テ四海ヲ呑ム。日《ひ》西天ニ没スルコト三百七十余箇日。西鳥来テ東魚ヲ食ウ。其後海内一ニ帰スルコト三年。※[#「けものへん+彌」、第3水準1−87−82]猴《びこう》ノ如キ者天下ヲ掠《かす》ムルコト三十余年。大兇変ジテ一元ニ帰ス」
それはこういう文字であった。
正成は沈思《ちんし》した。
思いあたることが数々あった。
(後醍醐《ごだいご》の帝《みかど》こそは神武の帝より数えて、九十五代にあたらせ給う。天下一度乱レテ主安カラズ。これは現代《いまのよ》の事なのであろう。東魚来
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